2013年1月13日日曜日

大津由紀雄先生 中締め講義―言語教育編― まとめその1

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

年が明けてもうすぐ半月が過ぎようとしていますが、いかがお過ごしでしょうか。


私はというと、本日(というか昨日ですね)1月12日に慶應義塾大学三田キャンパスで行われた、大津由紀雄先生の中締め講義(言語教育編)を聴講しに行きました。久しぶりの東京で、内心どきどきしていましたが、何とか無事に行って帰って来れました。記憶が新しいうちに、思考のまとめをしておきたいと思います。


講義は大津先生の言説の基盤部分になる知識からご教授頂きました。「ことばへの気づき」を中心にお話を伺いました。以下、大津先生の論と、自分なりに考えたことをまとめます。内容等、不適切なものがありましたら、ご指摘いただけると幸いです。



「ことばへの気づき」
講義においては、「ことばへの気づき」に関するムービーを見せて頂きました。1つだけ示させてもらうと、「トラさんたち」という複数を示す「たち」という形態素のL1での気づきに関するムービーがありました。日本語の「○○たち」というのは、必ずしも○○という名詞が複数いることを示しているのではなく、トラと象(、ゴリラ、、…)でも「○○たち」と表現することができます。


大津先生は、「L1による『ことばへの気づき』が言語の普遍性を導くものであり、それをL2に転用していく」と仰っていました。私もL1の言語知識を援用してL1で推論する方がはるかに鋭敏に「ことばへの気づき」が達成されるだろうと思います。L1による分析考察をL2に反映していく方がより深い「ことばへの気づき」が得られると考えます。「英語の授業は(原則的に)英語で」というのに何か少し違和感を感じていたのは、L1とL2を乖離した考え方だったのかもしれません。(だからと言ってL1での分析考察だけを行っていればいいという議論にはならないことには注意したいです。)


大津先生のお話を自分の研究につなげて考えてみました。

初期の段階では、「○○たち」=「○○が2つ以上」というマッピングがなされています。これをLangacker (1987, 1993, 2008) が主張しているネットワークモデルに落とし込むと、この段階ではSCHEMAとPROTOTYPEのネットワークが形成されている状態だと思います。この段階で、EXTENSIONとして「桃太郎たち」という表現は可能であるが、あの物語では桃太郎は何人?という揺さぶりをかけることによってSCHEMAが変容するのだと思います。この揺さぶりが「ことばへの気づき」を引き出すトリガーになっています。

「メタ言語知識」≒SCHEMAと考えることができると思います。そうすると、ことばの多義的な使用法を学習者に示す際には、何かEXTENSIONにあたる事例でSCHEMAに対し揺さぶりをかけることが有効に働くのかもしれません。



以上のことをまとめると次のようになると考えます:

①SCHEMA―PROTOTYPEのネットワークは(経験により)構築されている
②EXTENSIONの事例を提示して①のSCHEMAに揺さぶりをかける
③SCHEMAの変容(もしくは再構築…抽象度の上昇)

といった具合にことばの意味が拡張していく、もしくは学習者の頭の中の意味ネットワークを広げていくことができるかもしれません。(※この点に関してはもっと慎重に、丁寧に考える必要があると思いますが…)

現在、修士論文で句動詞の多義性について調べていて、句動詞の教育文法を認知言語学の立場から示そうとしています。その際、Langackerのネットワークモデルも用いて整理しようと思っていたのですが、ネットワークを示すだけでそれをどのように用いることができるのか、ちょうど悩んでいたところでした。少し糸口が見えたような気がしています。

またの機会に自分の研究についても書いてみたいなと思います。





他にもたくさんのことをご教授頂いて、さらには、大津先生自ら指定討論者を選出して批判をさせるという時間も設けられておりました。この辺りから、大津先生の学び続ける姿勢、批判を受け入れ自分の論を更に精緻なものにしていこうという姿勢が見受けられる気がしました。この討論である、『大津言語教育論を斬る』の部に関してもまとめたいと思っていますが、それはまた次回ということで。近いうちにまとめたいと思います。




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Langackerのネットワークモデルに関しては、Open File Notesの「言語学者Ronald Langackerによる動的用法基盤モデルの汎用性」というサイトで簡潔にまとめられています。また、興味がある方は、Langacker(2008) Cognitive Grammar山梨正明『認知構文論』をご覧になると参考になるかと思います。

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